胸の疼きが渇望に変わりそうだった。
けど俺はどうにか思いとどまって、
「冗談はよしてくださいっす」
こんなところ大雅先輩にでも見られたら大変だと、相手の両肩に手を置いて強めに押し返す。
が、その手首をひったくるように奪われて地面に縫い付けられた。
手首に痛みを覚えるほど、彼女の握力は強い。本気で握り締めてきている。
何度か瞬きをした後、「先輩駄目っす」俺は幾分落ち着いた声で相手に伝えた。
俺達はもう、こういう関係じゃない。
俺は大雅先輩に貴方を託した。
俺は貴方と良き友人でいたいのだと、そう胸の内を明かす。
すると先輩がようやく重たい口を開けた。
「もし、これで最後にするからと言ってあんたの体を求めたら、空はどうする?」
何を今、彼女は言った?
目を点にしてしまう。たっぷり間を置いた後、俺は言葉を脳内で反芻し、「体ってセックスっすか?」と尋ねた。
「ムードのない奴だな」
当たり前じゃないかと先輩、いつものあたし様が発揮されているようだ。
本調子じゃないようだけど、いやでも先輩はそれくらいないと。
じゃなくって!
な、な、な、何仰ってるんですかアータ!
え、いや、場面的にいえばめっちゃアダルトチックっす!
これで最後にするからって体を求めっ、どこぞのB級ドラマの展開っすか!
今時のB級ドラマだってそんな展開チープだと思いますっすよ!
「む、無理ムリムリっす! 俺はスチューデントセックスを断固拒否する男っす! たとえ最後の我が儘でもそれは駄目っす!」
「では今日が地球最後の日と仮定付けて話を進めてみよう。そうすれば互いに未練なく」
「そういう問題じゃないっす! 第一お外でするつもりっすか! 大雅先輩を正門に待たせているのに?!」
「安心しろ。体育館倉庫とシチュエーションは考えている。大雅は、あー、三時間くらいなら許容範囲として待ってくれるだろう」
大雅先輩が可哀想過ぎるっす! 仮にも彼は婚約者でしょ!
俺のツッコミに我が儘な奴だと鈴理先輩が唇をへの字に歪曲する。
どっちが我が儘っすか!
とんでも発言をしているのは鈴理先輩の方なのに! どっちにしろ俺には叶えられそうにない願いだ。
だって俺達はもう。



