「ちゃんと食べなきゃ駄目っすよ。無理なダイエットは禁物っす」
柔和に綻ぶと俺は彼女に背を向け、靴を履き替えて昇降口を出た。
たったこれだけのやり取りでも変に緊張する俺がいるのは、どっかで先輩に恐れをなしていたのかもしれない。
怒りを買ったしな。
ある程度の覚悟はしていても恐怖が無いってわけじゃないんだ。
やっぱ怖いよ、人に暴言を吐かれるって。
頭の後ろで腕を組み、ふーっと息をつく。
天を仰ぐと今日も青い青い空が俺を見下ろしていた。空が空を見下ろしている。
ちっとも笑えない駄洒落ができちまった。
次の瞬間、俺の視界が縦に揺れた。
「へっ」間の抜けた声を出してしまう俺の足が地面から離れた。
浮遊感と共に視界に飛び込んできたのは鈴理先輩の柔らかな髪。
絹糸のような艶やかな髪が俺の視界を一杯にした。
瞠目してしまった。
なんで、俺、彼女に担がれて。
「ちょ、先輩!」
いきなり何するっすか、頓狂な声を上げる俺に煩いと鼻を鳴らす彼女は昇降口にいる大雅先輩に正門で待っていろと命令していた。
「俺に命令するなっつーの」
肩を竦める大雅先輩の承諾を得ると彼女は俺を抱えたまま何処かへ歩き出す。
一体何処へ行くつもりなのか。第一この体勢はなんなのか。
目を白黒させる俺は、すぐに思考を回して彼女におろしてくれるよう頼んだ。
こんな体勢、慣れてはー…悲しいことに慣れてはいるけど、でも受け入れられないっすよ。
貴方の掲げる受け男はもういないんっすから。
少なくとも俺じゃなくなった筈っす。
だからって強く抵抗すると先輩を怪我させそうだから、俺は口で何度もおろしてくれるよう頼む。
まったく聞く耳を持ってくれない先輩は第二プール館の裏まで俺を運び、近場の木陰で俺をおろした。いや落とした。
背中を打ちつけてしまい、痛みに呻いてしまう。おろせとは言ったけど、もう少し丁寧に扱ってくれても。
痛みに耐えながらどうにか上体を起こそうとした刹那、某肉食お嬢様が覆いかぶさってきた。
満目一杯に先輩が映って俺は言葉を失ってしまう。
四日ぶりに間近で彼女を見たけど、やっぱり先輩は美人だった。
いつもより血色が悪い気がするけど、ふっくらとした薄唇も、切れ長の二重や長い睫も、通った鼻筋もすべて見とれてしまう。



