「早く言ってくれたら今日のお昼ごはん、奢ってあげられたのに。大変だったんだね」
いやこれから先、本当に大変な想いをするのは俺じゃない。鈴理先輩だ。
俺は身を引けば終わりだけど、彼女はそうじゃない。
財閥の未来のために大雅先輩と頑張っていかないといけないのだから。
「空くんは馬鹿だ」
他人を気遣っている場合じゃないとエビくんが物申す。
どんなに相手を想っていても相手は相手、自分は自分。
まずは自分を大事にしてあげないといけないんじゃないかとエビくん。
「だって自分の人生は自分が主役なわけだし」
らしくないドラマチックな台詞を贈ってくれる彼に俺はそうだね、と相槌を打った。
エビくんの優しさが身に沁みたからお礼を言っておく。
とはいえ、本当に俺はもう大丈夫なんだ。
確かに立ち直れていない節はあるけれど、弱音を表に出した。
人の優しさに触れたから、現実に打ちひしがれながらも二本足で立っていられる。
対照的に心配だったのは鈴理先輩だった。
彼女の気持ちを踏み躙って別れ話を切り出したんだ。
きっと傷付いていることだろう。
傷付けた自覚があるからこそ、胸が締め付けられそうだった。
結局その日、俺は鈴理先輩と会うことはなかった。
同じ学院に居ながら、お互いに携帯という連絡を取り合う術もあるのに婚約式の出来事があるから歩み寄ることができなかったんだ。
月曜がそんなもんだから、それから三日間、俺達は顔も声も交わすことが無かった。
エレガンス学院は広いからな、俺が二年のフロアに赴かない限り滅多なことじゃ先輩達とも会わないだろう。
俺達の破局はすぐさま学院に知れ渡った。
婚約の話もどこから漏えいしたのか分からないけど、学院一の珍カップルの破局はちょっとしたスキャンダルになったみたいで、廊下を歩く度に視線を浴びた。
日頃の行いの悪さ? えげつなさ? バカップルっぷり? を思い知らされたよ。
どんだけ俺達、目を引くカップルだったんだろう。
十中八九先輩の行動の雄々しさに原因があるんだけどさ。
親衛隊に皮肉の一つでも頂戴するかなって思っていたんだけど、何故かあいつ等と顔を合わせたら、シクシク泣かれた。
関わるとロクなことがないから、泣いている理由は聞いていない。毒づかれなくて良かったなぁっとは思った。



