「御堂先輩、ありがとうございました。もう、大丈夫です」
 
 

路地裏を出た俺は付き添ってくれたプリンセスにぺこっと頭を下げる。

どれほど路地裏にいたのかは分からないけれど、表通りに出るとやけに街の夜明かりが眩しく思えた。腫れぼったい目に微かな痛みを感じる。


それだけ大破局に泣き腫らしていたわけだけど、気持ち的にはなんだかスッキリした。

溜めていた感情を吐き出したから、幾分軽い。

立ち直れているかって言われたら、それはまだ話は別だけど。
 

御堂先輩にお礼を言うと彼女は子供っぽく笑って、「素直な子は好きだぞ」おどけてくる。

気恥ずかしさからはにかんでしまう俺に、目で笑う御堂先輩は少し付き合ってくれと俺の腕を取って夜の街を歩き出した。

何処かに行きたいらしい。

散々付き合ってもらったから異論もなく、俺は彼女の後をついて行く。


御堂先輩が訪れたのは一件のコンビニだった。某Lのロゴが一際夜の街に存在感を示している。

彼女はコンビニ前に俺を置くと、「少し待っててくれ」すぐに戻るからと頭を撫でて中に入っていった。

泣き腫らした顔を誰かに見られるのが嫌だったから、彼女の配慮は有難かった。


コンビニの照明をバックに俺は御堂先輩が出てくるのを待つ。


その間、手持ち無沙汰になったから照明の光によってできた俺の影と遊んでいた。

くっきりと濃い影は憂い帯びている。

今の俺の気持ちを表しているようだ。
 
 
「あ。そういえば」

 
影と遊んでいた俺はハタッと思い出した。

俺もコンビニを探していたんだっけ。道を聞くために。すっかり忘れていた。
 

後で道を聞こうかな、独り言を呟いて右足を動かす。影が俺を真似て動いた。

いつまでも真似てくる影を眺めていると、「お待たせ」ビニール袋を手に提げた御堂先輩がコンビニから出てきた。

若干不機嫌な彼女は、


「どうして夜のコンビニ店員は」


野郎しかいないんだ、と不服を漏らしている。


良くしてもらっていたから忘れていたけど、先輩は生粋の男嫌いだったっけ。
 

他人事のように思案をめぐらせていると目の前に個包装されたアイスを差し出される。

きなことパッケージに書かれたそれに驚いていると、「食べよう」僕の奢りだとプリンセスが笑顔を向けてきた。