「―――…ッハ、しまった。今日田中さんに送ってもらったから、帰り道が分からない!」
ホテル会場を後にした俺は、大変な危機に直面していた。
カッコつけてホテルを出たはいいけど、帰り道が分からないんだ。
なにせ、今日は鈴理先輩の送り迎えをしている運転手田中さんに送ってもらったのだから。
どうやって送ってもらったかというと、お電話して迎えに来てもらいました。
英也さんの手紙に田中さんの連絡先が書いてあったんだよ。
来る場合は送ってもらえって。
お言葉に甘えてバイトが終わった後、このホテルまで来たはいいけど、帰りを考えていなかった!
「どうしよう。田中さんにまた連絡するのも気が引けるな。だからって全然分からないぞ、ここら辺の地域」
確か近場に駅があるって言っていたから、駅まで歩けばいいんだろうけど、駅はどっちだ。
ホテル前できょろきょろと左右を見渡していた俺は、目前の片側三車線道路を睨んで腕を組む。聞けそうな通行人も見当たらないや。
こりゃお手上げだね。
「コンビニに行くしかないか」
あそこなら道を聞けるだろうから。
結論を出した俺は取り敢えず歩くことにした。
歩いていれば、一件くらいコンビニに辿り着くだろう。
この時代、コンビニだらけだし。
頭の後ろで腕を組んで、右の道を足先を向ける。
すっかり日の暮れた見知らぬ街中を歩くのは新鮮な気分だ。
真新しい世界が俺の視界に飛び込んできて、ちょっとした冒険をしている気分になる。
見慣れないビルや建設会社前を通り過ぎた。
ふと脇に路地裏が見える。
なんとなく抜け道はないかなっと歩み寄る俺は軽く現実逃避をしているらしい。
普段だったら絶対しない行動を起こしていた。
湿った臭いが鼻に付くだけで、向こうは闇ばかりが息を潜んでいる。
微かに街のネオンがぼおっと揺らいでいる気がしたけど、見えるのはそれだけだ。



