刹那、右頬に鋭い痛みが走った。
乾いた音と共に「空には失望した」もう知らん。あんたがそうしたいなら勝手にしろと鈴理先輩が早足で会場の方面へ戻って行く。
アイテテ、引っ叩かれてしまった。
頬を擦る俺は初めて女の人に叩かれたと息をつく。
しかも何気に容赦ない平手打ちだったな。
手形がついてないといいけど。
「いってぇ」頬を擦っていると、「テメェってほんと」鈴理馬鹿だな、大雅先輩が俺の右肩に手を置いてきた。
あんなことを言えば鈴理が爆発するって分かっていたのに、わざと言っただろ?
苦笑して俺を見下ろしてくる。
視線を返した俺は、「貴方も先輩も好きっすよ」と笑みを返す。
「俺にすげぇ良くしてくれた。その気持ちは俺に届いている。努力して手に届かないことがあっても、気持ちは届いているっす。
ただ言ったとおり、俺の存在は貴方達にとって邪魔になるっす。
先輩と俺だけの問題じゃないんっすよ、これは。
竹之内家や二階堂家全体の問題になるっす。
大雅先輩、鈴理先輩をお願いします。貴方になら任せられる。今の俺は追う権利さえないっす」
「…ああ。任せとけ」
今頃自分の控え室にいるだろう。
大雅先輩は彼女の追うため、歩き出した。
その際、一度だけ足を止めて振り返らずに言う。「ごめんな」と。
「いいから行って下さい」
苦笑して先輩の背を言葉で押した。
それを合図に駆け出す大雅先輩を見送った後、俺はもう一度頬を擦ってこれで良かったのだと言い聞かせた。
だって俺じゃ無理だから。婚約者になる二人の障害物になるだけなんだ。また、誰かの人生を奪うくらいなら俺は。俺は。
“君にこんなことを言うのは酷かもしれないが、鈴理は二階堂財閥と婚約しなければならない。
鈴理は親の言いなりだと思うかもしれないが、大雅くんとなら上手くいくだろう。
将来安定した生活も送れる保障がある。
この先、鈴理はきっと社会の厳しさに気付いてくれると思うんだ。だから空くん、君には”
これから先、鈴理を支える良き友人となって欲しいんだ。
英也さんからそう頭を下げられた時、俺は何も言えなかったし、返せなかった。
ショックとかじゃなく、嗚呼、この人は本当に娘さんを愛しているんだなって思ったんだ。
娘の将来の幸せを願って、俺に彼女と別れて欲しいと頼んでいる。
でも離れろいうわけではなく、友人と支えて欲しいと心から願っている。



