英也さんに笑みを向ける。
素直に笑みを受け止めてくれる英也さんが口を開いた。何を言おうとしたかは分からない。
何故なら、英也さんの言葉が別の人の言葉で上塗りされたのだから。
怒号に近い声で父さまと呼んでくるのは会場にいた筈の主役の片割れ。
もう片割れが「おいちょっと待てって」相手を宥めているけど、彼女は余裕がないのだろう。
ずかずかと大股で俺達に歩んできた。
完全に目が据わっちゃっている鈴理先輩は、「父さまが空を呼んだのですか」と詰問を始める。
こんなところで口論にでもなったら折角の式が台無しだ。
「先輩」ちょっと落ち着いて、言葉を掛けるけど綺麗にスルーされてしまう。
鈴理先輩は英也さんに返事を催促した。
ある程度、娘の憤りに予想が立っていたのか、動じることなく彼は首肯する。
自分が娘の恋人を招待したのだと。
「何故ですかっ」
何故あたしに黙って、勝手なことばかりっ…、怒りが沸点に達したのか、言葉を詰まらせる彼女がいた。
ええぇえっと怒りたい気持ちは分かるんだけど、でも、他の客人にこの場を見られたら一大事だ。
祝いの席で口論とか周囲にとってしてみれば美味しいネタに違いない。
「先輩。俺と話しましょう。招待状を送ったのは英也さんっすけど、出席を望んだのは俺なんですから」
怒りの矛先がこっちに向いたけど、これはシメたもの。誘導しやすい
「大雅先輩も同行をお願いします」
ちょっとお二人とお話がしたいので、俺は二人に申し出て英也さんに頭を下げた。
同じように頭を下げてくる英也さんの眼は俺に期待を寄せている。
うーん、何処まで先輩の怒りを宥められるかは分からないっすよ。
此処まで怒った先輩、初めて見たんっすから。



