いつの間にいたのか、お松さんがテーブルからぬっと顔を出し、さっさと先輩の皿から料理を小皿に分けていく。
今日の先輩の昼食メニューはトンカツ定食。
だから、切り分けられていたトンカツを半分ずつ盛ってくれているんだけど。
「え、でも」一食くらい平気っすよ? 俺の台詞に、「馬鹿者」食べ盛りだろ? 食わないでどうする、と先輩が不機嫌に返した。
「そうやって昼食を抜いて、どんどん痩せていったらどうする? いいか空、あたしはな、あんたにちゃんと食ってもらいたいんだ」
「先輩…」
「でなければ、抱き心地が悪くなるだろう! しっかり食って、あたしを誘惑してくるエッロイ体を保持しとけ!」
………。
喜べばいいんっすかね、その訴え。
素直に受け取れないんっすけど。
てか、誰がエロイんっすか、誰が。
先輩の色目フィルターが勝手な妄想をしてるだけでしょーよ。
誘惑した覚え、これっぽっちもないんっすけどね。
「ガリガリなど論外だ」
熱弁する先輩は、食わないなら食わしてやるまでだとニヤリ顔。
誤魔化し笑いを作る俺は、目前に置かれた皿を素直に受け取り、手を合わせてイタダキマス。
彼女に逆らったら何をされるか分からない。
貞操を守るためにも指示に従った方が身のためだ。
鈴理先輩にお礼を言い、箸立てから割り箸を取る俺の一連の流れを眺めていた大雅先輩が、
「ほんとにお前のところは大変なんだな」
と箸の先端を銜えてぼやいた。
次いで、「そうだ」頭上に豆電球を明滅させて身を乗り出してくる。
「なあ豊福。今日の夕飯代が浮く良い話があるぞ。ご両親、飲み会で不在なんだろ? 尚更お前にピッタリな良い話があるんだ」
「え? 夕飯代が浮く?」
ついつい食いついてしまう俺に、
「なあ鈴理」
大雅先輩が満面の笑みを浮かべて提案した。
今日の財閥交流会にこいつを連れて行こうぜ、と。
それは良い案だと相槌を打つ鈴理先輩が一緒に行こうと前触れもなしに誘ってきた。



