とはいえスピーチはあまり耳に入ってこなかった。
俺の目はドレスアップされている鈴理先輩に釘付けだから。
いつ見ても先輩は美人だと思う。
今日は一際、美人の『美』の要素が際立っていた。
自然な『美』を引き出すメイクをされているからだろうか?
あの人にいつも攻められていると思うとなんだか不思議な気分。
見た目はお淑やかな女性に見えるんだもん。
中身はてんでお淑やかじゃないんだけどな。
だってあーんなことやこーんなことをしてきたり、ヤーんなことで俺を困らせてくるんだから。
そんな彼女と大雅先輩が並べば、そりゃあ周囲が羨ましいと思う美男美女カップルだろう。
挨拶中、俺は鈴理先輩と視線がかち合ってしまう。
能面だけど含みある視線は俺に何かを訴えかけていた。
俺は笑みを返す。今の俺に出来る、精一杯のことだと思った。
最初に二階堂家が、後に竹之内家の大黒柱が挨拶をする。
最中にボーイさんから飲み物を配られた。
乾杯をするための飲み物だろう。
身なりで学生って分かったのか、選択しなく葡萄ジュースを手渡される。
大人は赤ワインみたいだ。親の長ったらしい挨拶が終わると乾杯の音頭が取られ、客人の俺達は口を揃えて乾杯。立食が始まった。
俺は早速食事を始めたんだけど、周囲は向こうの家族たちに挨拶しに行っている。
勿論俺みたいに食事をする奴もいるけど、大人はご挨拶モードらしい。
まあ、親睦を深める内輪婚約式だ。
挨拶は当然するべきなんだろうな。
庶民出身の俺には分からないけど。
それに俺が今、婚約者達のところに行ってもな。
雰囲気ぶち壊すだけだぞ。
先輩達を気遣わせてしまう。
ただでさえ御堂先輩や宇津木先輩から心配されているんだ。これ以上、誰かに心配を掛けたくない。
小皿に名も知らない料理を取り分けて一口。
嗚呼、美味い。
これが何の料理で、どういう味をしているのか説明できないけど、ジャガイモ美味いよ。ホクホクしている。
パイ生地に包んであるみたいだけど、ジャガイモパイじゃなさそうだ。
なんだろう、この料理。
滅多に食べられないローストビーフもここぞとばかりに噛み締めた。
パーティーで楽しめるといったら俺の場合、食事くらいだ。
周囲は談笑しているけど、御堂先輩達以外に知り合いはいないし。



