口にすればするほど僕は彼のことが好きなのかもしれないな。
決まり悪そうに心情を語ってくる玲に、百合子は彼女の本気を感じた。
あの男嫌いだった玲がそこまで…、恋の魔法とは凄いものだ。
柔和に綻び、百合子は素敵な恋だと目尻を下げた。
相手のことはさておき、恋をしている彼女自身には声援を送りたくなる。
百合子の微笑に彼女はやや照れたのか、視線を外して珈琲を啜っていた。
彼女はブラックで飲むのが好きなのか、添えられているシュガーもミルクも手につけられていない。
「それにしても、空さんがそんなことを思っていたなんて知りませんでしたわ。身分のことを考えていらしたんですね」
先程、玲の言葉に出てきた内容を思い出し、百合子はそれを引き出した。
「気にしないわけないと思うんだ」
飲みかけの珈琲を覗き込む玲は、自分が恋人だったら気掛かりに思うところではないかと百合子に同調を求める。
付き合っている恋人に許婚がいる。
将来を約束された相手がいる。
なのに自分は恋人と付き合っている。
気もみするだろう。
恋人なんて一時の関係。
生涯を意識しあうカップルを除き、いずれは別れるものである。
それを見越して付き合っているならまだしも、それを割り切れず“今”のみ見据えて付き合っているのならば先の見えない将来に不安を抱いて当然。空もその類なのだ。
特に彼は庶民出身、財閥界なんて次元の違う世界だと思っているに違いない。
「将来を考えて付き合うカップルなんて、そうはいないと思う。
でも、いつかは別れる前提を念頭において付き合うカップルもそうはいないだろう。
だからこそ複雑なんだ、豊福と鈴理の関係は」



