「鈴理さん。とても気に病んでいましたから…、空さんもこのことを知ったらなんと言うか」
溜息、それしか出ない。
目を細める玲は、
「だから言ったんだ」
許婚は白紙にしておけと、そう言ったのに。白紙にしないからこんな事態を招くのだと玲は毒づく。
「これで豊福はフリーだな」
だったら僕が貰ってやる、挑発的な物の言い草にも百合子は一笑で流す。
玲の鈴理に対する悪態はすべて心配の裏返しなのだ。
良きライバルであると同時に彼女は良き友人として昔から彼女を慕っている。幼馴染の百合子はそれを知っていた。
「そういえば玲さんは、空さんのことを好いていると仰っていましたけど」
実は百合子自身、半信半疑な気持ちだった。
あの男嫌いな玲が庶民の男を好きになる。
それは好敵手がその男を好きになったから、ムキになって対抗しているのではないかと思っていたのだ。
しかし百合子の疑心はすぐに晴れる。
「不本意だが」そうなんだ、と玲が照れたように頭部を掻いた。頬が薄っすらと紅潮している。
目を見開く百合子を余所にプリンセスは、「あの姿を見て守ってやりたくなったんだ」どうしようもなく守ってやりたくなった、独り言のように語った。
「衝動に駆られたといえばそれまでなんだが、僕はどうやら豊福に一目惚れしてしまったようなんだ」
初対面で物申した度胸も、財閥のさだめも理解していることも。
いつかは、鈴理と別れないといけない。
そう思いつめている姿も。
彼はしごく受け身だが、陰では彼女を守ろうとする男なんだろう。
鈴理に気付かせず、財閥と庶民の立場。許婚の件。身分に対して真剣に考えていた。
僕はその姿になんというか彼は守ってやりたくなる衝動に駆られた。
総合するとやはり僕は一目惚れしたとしか言いようがない。
最初こそ認めてはいなかったけれど、男だと線引きしていたけれど…、素直にならないと勿体無い気がしてな。
僕は自分の気持ちも彼自身も受け入れようと思ったんだ。
「変わった持論を掲げる女でも受け入れようとする。そういうところも好意感を寄せている。それは鈴理とは関係ないんだ」



