「やってらんねぇぜ。ったく、なんだってんだ」


二階堂財閥次男・二階堂大雅は両親達の横暴な策につくづく嫌気が差していた。

 
これほど当人達が大反対しているというのにも関わらず、婚約式の日程を決めるを押し通し、それが上手くいかないのならば自分達で日程を取り決めてしまった。

しかも日時が今週の日曜日。内輪だけの仮婚約式をするなどと、此方の心積もりもなく言われてしまい、大雅の機嫌は最高に悪かった。

両親の根回しは上手く、既に親密になっている財閥の友人達には招待状を送っているらしくドタキャンをすれば二家族が恥を掻くと脅してきた。


恥でもなんでも掻けばいいじゃないか。

自分の意思でやっているわけではないのだから。


そう思う一方で、現状に従うしかない己がいて腹が立つ。
 

「鈴理と随分反対したんだけどな」


今頃あいつはどうしているだろう。許婚のことが心配になり、ベッドに横になっていた大雅は上体を起こしてベッドテーブルに置いていたスマホを手に取る。


画面をスライドさせてアドレスを呼び出し、電話を掛けた。


二コールで相手が出る。思ったほど声音には覇気があるものの、機嫌は最高に悪いらしい。

声のトーンが通常の三倍低かった。

両親から説明を受けていたのだろう。


鈴理に大丈夫かと尋ねれば、『大丈夫なものか』ストレスで胃炎になりそうだと許婚。

それくらいの元気があれば大丈夫そうだな、苦笑する大雅は「ついに婚約者だってよ」どーする? 俺達、寝ないといけない関係だぜ? とおどけてみせた。


『論外だ』


あんたを抱いて楽しいかといえば否だぞ、はっきり言われてしまうが大雅にとっては都合が良かった。

自分も同じ意見なのだから。


『あんただって百合子のことがあるだろ』


不意打ちを食らってしまうが、大雅はそれはそれだと目を伏せる。

あくまで宇津木百合子は兄の婚約者であり、自分にとって将来の義姉。それ以上も以下もない。

けれど今回の件は庶民出身の後輩が絡んでいる。

大雅としては応援している身、どうしても今回の婚約式を阻止したかった。