「ちょっ、何しているんっすか!」
「ボタンを外しているんだ」
「それは見れば分かりますよ! だからなんでボタンをっ、ギャーッ! ボタンを引っ張らないで下さい! 縫い付けるのは俺なんっすからあ!」
引きちぎりそうな勢いで上三つのボタンを外した鈴理先輩は、有無言わせず肩口に齧りついてきた。
もう一度言うけど、齧りついてきた。
「アイッター!」
容赦ない一撃に俺は絶叫。
「色気が無いぞ!」
もっとあっはんうっふんな声が聞きたいって文句を言われてしまった、が、そんなの無理っす!
俺はMじゃないっす!
よって痛いものは痛いっす!
痛感を快感に摩り替えるなんて技術は持ち合わせちゃないっす!
男ポジションを譲ってやっているんっすからそれで我慢して下さいよ!
だけど鈴理先輩は構わず人を噛んでくる。
これじゃあ本当に肉食お嬢様だ。餓えた獣っていうかなんというか。余裕が無いのは窺える。
結局俺は彼女の好きにさせるしかなかった。
少し経つと落ち着いたのか。
「痕が消えかかっている!」
人の首筋を見た先輩が死活問題だと両手を握り締めて微動する。
「充電が切れる筈だ。痕が消えかかっているではないか! ぐぎぎっ、所有物! なんで早く言わない!」
理不尽な怒りだよ、それ。
「俺のせいじゃないっすよ」
吐息をつくと、彼女が両手で頬を挟んできた。
無理やり視線を合わせられた俺は、なんとなーく身の危険を感じて視線を流す。
今の先輩は理不尽な怒りの矛先を俺に向けそうなんだけど。
案の定、「空が誰のものか」その身に教えてやる必要があるな、とかなんとか言ってきた。
なんで怒られなきゃいけないんだろう。俺のせいじゃないのに!
そう、これは鈴理先輩の―…、嗚呼、やっぱり聞けないや。
久しぶりに見る鈴理先輩の攻め顔が本当に楽しそうだから、それを穢したくない。



