「今、蘭子に心を奪われたよな? 豊福」
「いや、そのあの」
「だったら君の瞳に僕だけしか映らないよう染めてあげる。ほら、ちゃんと僕を見て」
アッマーイ!
びっくりするくらいその台詞は甘いっす!
俺にはちょっと糖分が高いっす!
攻められたいわけじゃないけど、慣れない攻めっす!
不慣れのあまりに視線を逸らそうと「こらっ」と叱られてしまった。
ちゃんと僕を見ていないと解放してあげない、プリンセスは甘い中に意地悪さも投与してきた。
そんなこと言われましても俺と貴方はご友人! 恋人でもなんでもないしっ、蘭子さんが目前にっ!
「お嬢様が男の方を口説いているなんて。蘭子は嬉しゅうごいざます」
なんか感動されているんだけど!
御堂先輩、普段この人にどんな苦労を掛けていたんっすか! 涙目になってるっすよ!
心中でツッコミを入れ、口説き倒してくる糖分高めのプリンセスには勘弁して下さいと愛想笑いを貫き通してその場を凌ぐ。
ようやく解放してくれた御堂先輩は、やや頬を紅潮させてどぎまぎになっている俺を目で笑った。
次いで車を出すよう蘭子さんに命じる。
「豊福様をお持ち帰りするのでしょうか?」
美しい笑顔ですったもんだなことを仰る蘭子さんに、俺は三点リーダーを頭上に浮かべた。
今のは明らかに俺の中で減点対象である。
「そうしたいところだが、今日は豊福と一緒に帰ろうと思ってな。豊福、帰りまで僕に付き合ってくれ」
「え、ああすみません。送って下さるんっすか?」
「明日もバイトなんだろ? それくらいお安い御用だ。僕の愚痴を聞いてもらったお礼でもあるんだ」
彼女のイケた笑顔につられて俺も綻んでしまう。
するとプリンセスに、「今の笑顔の方が好きだな」それがいつもの豊福だと御堂先輩がウィンクしてきた。
鈍感な俺は此処で気付くんだ。御堂先輩は俺を励ましてくれていたんだって。
いつもの調子を取り戻そうとあんな目立つ攻めを…、嬉しいやら苦笑いやらだ。
「ありがとうございます」
うそつきな俺はやっと自分の素の気持ちを相手にさらけ出すことができた。一笑を零し、御堂先輩は口を開く。
「君には財閥の苦労というものが分からないだろう。でも、君には君にしか分からない苦労を背負っている。バイトだってそうだ。
苦労しているなら、その分誰かが労わってやらないとな。それくらいの褒美が君にあってもいいだろ?」



