頭を抱えている俺の隣では、「やっぱり間接キスでは足りないな」と、御堂先輩が不服を漏らしていた。
これでも紳士に物事を進めていきたい性分らしく、いきなりキスを仕掛けたり、襲ったりすることはしないそうな。
何事も段取りを大事にしている。
意気揚々と語ってくれる先輩にツッコミたい。
今までのことはカウントされないんっすか? って。
思いのほか、口に出していたようで先輩から勢いよく肩を抱かれたと思ったら、顎に指を絡められて視線を固定される。
これはまずい!
「だったら今度は段取りなしでいってみようか。豊福」
「い、いきたくないです! 段取り大事っす! どうぞ段取りを大事にっ」
「段取りのことを指摘してきたのは豊福だぞ」
それはそうなんっすけど。
でもでもでもでも俺達は恋人じゃないっす!
ただのお友達っす!
俺には鈴理先輩がいるんっすよ!
だから断固としてっ…、こ、腰を触らないで下さい!
こんなところで体を密接にしているなんておかしいでしょ! 絶対に目立…、あれ、向こうにいるのは鈴理先輩?
俺は御堂先輩から目を放して、片側三車線向こうの歩道を見やる。
バス停すぐ近くに高級車が停まったんだけど、そこから鈴理先輩が大雅先輩と一緒に下車していた。
「鈴理達じゃないか」
何をしているんだと御堂先輩も視線をそっちに向ける。
その隙に魔の手から抜け出した俺は、二人に声を掛けようと手をあげた。
けど、その手はすぐ下りてしまう。
俺は見てしまった。
大雅先輩が不機嫌になっている鈴理先輩の頭に手を置いて、彼女を慰めている姿を。
いやそれだけじゃない。大雅先輩は数秒間、鈴理先輩を抱き締めた。
抵抗していないのは確かに俺の彼女の姿。
抱き返していたのは俺の大好きな人の姿だった―――…。
只事じゃない気がした。
俺は御堂先輩の腕を掴むと、気付かれないようその場から移動する。
そのまま近くのマンション陰に隠れたけど、気持ち的にはちょっち動揺していた。
二人が抱き合っている姿に動揺、というよりも、二人の醸し出す空気に動揺してしまって。
いつも近くで二人を見ているけれどあんな二人は初めて見たな。
ちょっと意外かもしれない。
ん? 初めてじゃないかも。
誘拐事件の時にああいう姿を見たような。
でもあれは俺も負傷していたし…、なんだろう。変な気持ちが胸を締める。



