ぎゅうううっと腕を締めてくるせいで、俺は動けずじまい。
御堂先輩はダンマリのまま抱き締めてくるし。
この状況をなんと称せばっ…、ま、まさしく捕まっちゃったな状況なんだけど!
困り果てる俺はどうしようとあたふた。
この状況は、困っている俺を見かねた御堂先輩が爆笑するまで続いたという。
単にわざと沈黙して苛めて下さっていただけらしい。
おかげさまで俺は妙な羞恥を噛み締めるはめになったんだけど。
「酷いっすよ。御堂先輩」
人ごみの多い駅付近を離れ、人気のないバスの停留所のベンチに腰掛けた俺は隣を陣取るプリンセスをじろっと睨んだ。
何処吹く風で笑っている御堂先輩は可愛い子ほど苛めたくなるものだとウィンクしてくる。
ゼンッゼン嬉しくないっすよ。
そう返事して、じゅーっとシェイクを飲む。
さっき抹茶Aセットを頼んでいたから、草団子はいらないと思うけど、一応彼女に食べるかと尋ねる。
意外なことにもらうと言われたから、俺は封を開けて彼女に差し出す。
「あ。飲み物いります?」
なんか買ってきましょうか?
俺は自分だけ飲んでいる現状は失礼だと思って、相手に質問した。
飲み物は持っているらしく、通学鞄からペットボトルを取り出していた。
なるほど、これで気兼ねなくシェイクが飲める。
「しかし豊福がいづ屋で働いているとは思わなかった。バイトを始めたのかい?」
流し目にしてくる御堂先輩はエレガンス学院の補助奨学生じゃなかったか? と言葉を付け足してくる。
遠まわし遠まわし勉強は大丈夫なのかって心配してくれているらしい。
そりゃあ、土日とはいえ勉強時間を削られるのは成績を落としそうで恐ろしいけど、千円でも二千円でも収入があった方がいいんだよな。我が家は。
別に隠し事をする内容でもなかったから、俺はバイトを始めた理由を彼女に話した。
給料カットのこととか、このままでは三日に一回もやし炒めになってしまうこととか。
「俺自身も小遣いが欲しいって思っていたんっすよね。
ほら、高校になるとやりたいことって増えるじゃないっすか。比例してお金も必要になりますし。
俺も勉強ばっかりじゃ息が詰まりますし…、だからって親にねだるわけにもいかないですし。働くしかないっす」
「そうか。豊福はご両親想いだな。さすがは僕のフィアンセ」



