前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―



えぇええ、此処で口説かれてもっ…、しかもゼンッゼン嬉しくないという。


「初めて言われましたよ」


お客様はお口がお上手ですね。
俺は愛想良く返し、ではごゆっくりと会釈してエスケープ。

が、左手首を掴まれて逃げることが敵わなくなった。

ちょ、俺、バイト中なんですって御堂先輩。
 

焦る俺の手に御堂先輩が紙切れを持たせてきた。

同時に手首を解放してくれる。俺は二度会釈して厨房に戻った。


そして早速紙切れを拝見。

それはルーズリーフの千切って走り書きされた一言メモ。


 
“待っているから”
 
 

……、これってあれっすか。

俺があがるまで待ってくれているって意味っすか?
 

ですよねぇ。
それ以外、意味が取れませんもん。 


やってしまった。俺は額に手を当てて、小さな溜息をついた。

これはもう逃げられないようだ。いやプリンセスからは逃げられないって分かっていましたけどね。

情報網の広さは脅威っすもん。

はぁあ、何事もないといいけど。


涙を呑む俺の様子を見た鈴木さんが勘違いしたのか、「ごめんねごめんね」僕の代わりをさせたばっかりに、と謝ってきてくれた。


いえいえ。

これは鈴木さんのせいじゃなく、俺の天命っぽいっす。攻め女難が俺に試練をお与えになったんっすよ。多分。
 
 

何はともあれ、御堂先輩にバイト先をばれてしまった以上、腹を括るしかない。

気を抜くと他の業務を失敗しそうだから、気合を入れて仕事に専念した。

ちょいちょい視線を感じたけど、土曜の昼下がりは忙しい。

学生さんやお買い物帰りのお姉さま方、奥様方が足を休めようと喫茶店に赴くんだ。


そうでなくても普通に茶菓子も売っている店だから、カウンターに回らないといけない。


販売エリアと飲食エリアを行き交いしている内に、俺は一時の間御堂先輩のことを念頭から消してしまった。忙しいと誰でもこうなっちゃうよな。