(先日、泊まりに来てくれた時はすっげぇ元気だったんだけどな)
とある土曜日のバイト中。
パシャパシャと皿洗いに勤しみながら思案をめぐらせていると、
「豊福くん。注文取って来てもらっていい?」
背後から声を掛けられた。
水を止めて俺は首を捻る。
そこにはバイトの先輩である鈴木浩実(すずきひろみ)さんが立っていた。
優しいんだけどちょっち気弱な男の人で今年、大学三年生。
背丈は180cmもあるノッポさんだ。
俺を見下ろし、伝票版を差し出して注文を取って来てと片手を出してくる。
それは構わないけれど、なんで自分で行かないんだろう?
鈴木さんはまだあがりじゃないと思うんだけど。タオルで手を拭きつつ、俺は理由を尋ねる。
すると鈴木さんが苦手なお客が来たのだと白状してくれた。
平日休日構わず、月に三度以上は来るお客さんらしい。
「僕はあの人の目が怖くて」
泣き真似までされてしまい、俺は苦笑して伝票版を受け取った。
鈴木さんには何度もレジで助けられているから、これくらいお安い御用だ。
「でもそんなに怖いんですか? クレーマーとか?」
「ううん、そんなんじゃないんだけど、僕には怖いんだ。何もしていないのに睨まれるんだよ。ごめんね、後で僕が社割で抹茶シェイク奢ってあげるから」
これだから鈴木さんは大好きだ!
抹茶先輩と呼んでもいいですか?!
楽しみにしていると笑顔を向け、俺はテーブル番号を聞いてそのテーブルに赴いた。
何処のどなたか分からないけど、貴方様のおかげで俺は抹茶シェイクを奢ってもらえるんだ。
怖い客だろうと、俺は営業スマイルで貫き通してやるんだぜ!
二番テーブルに赴いた俺は、
「ご注文はお決まりでしょうか?」
メニュー表を睨んでいるお客様に声を掛けた。
やたら不機嫌に鼻を鳴らすその客は、メニュー表をテーブルに置き、ギッと此方を睨んで「抹茶Aセット」と凄んでくる。



