前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―



含みある台詞は共感を誘(いざな)った。
 
最悪だと低く唸る鈴理は上体を倒してベッドに身を沈める。

柔らかな髪を散らして、鈴理は今から両親に確認を取ってくると婚約相手予定に告げた。

聞いたところで結果は同じだろうが、そうした方が良いと大雅も唸った。

電話越しから聞こえる溜息の重さは現在の感情に比例しているに違いない。
 

行き場の無い激情に駆られていると、

『てめぇ豊福のところに泊まってきたんだろ?』

食ってきたのか? と、大雅がオブラートもへったくれもない質問を飛ばしてきた。

また一つ呻き声を上げ、健全な一夜を過ごしてしまったと鈴理は鼻を鳴らす。


やや気持ちが軽くなったのか、

『ッハ。ドヘタレ』

なあにしているんだと大雅が揶揄してきた。間違ったって電話越しの相手には言われたくない台詞である。


口を曲げて、「仕方がないではないか」空が逃げてしまうんだからと相手に八つ当たりする。

 
「あれでもあたし想いだから、スチューデントセックスを安易に考えていないんだ。あいつは」

『うそつけ。土壇場で逃げられているだけだろうが。お前はいつだってマジだろ?』


ご尤もである。

反論ができずに舌打ちを一つ鳴らした。

やっぱりな、電話越しに大雅が声のトーンを高くした。

今頃勝利をもぎ取ったあくどい表情をしているに違いない。

長い付き合いなのだ。容易に表情が想像できる。
 

そう、大雅とは長い付き合いなのだ。

性格が似ているせいか喧嘩ばかりしているが、長い付き合いである。
 

物心ついた頃から、いやつく前から大雅と一緒だった。

なんというか大雅とは姉妹達とは別枠の兄弟みたいな目で見ている面がある。

だからこそ恋愛対象外なのかもしれない。
許婚という関係ではあったけれど、大雅をそういう眼では見たことが無かった。
 

「このままでは大雅を受け男にしなければならないではないか。あんたの体躯はタイプじゃないぞ。抱き心地が悪そうだ」


鈴理の愚痴に、『冗談言うな』俺は受け身じゃねえっつーの! 鳴かされるなんてごめんもごめんだと大雅。

俺こそお前を淑やかな女に調教しないといけねぇよ、と反撃され、「ほざけ」鈴理は一蹴した。

恋愛の主導権はすべて自分にあってこそ攻め女なのだと言い返し、大雅と自分じゃ無理だと身を起こした。


「一度電話を切るぞ。父さまや母さまに確認を取らなければ」

『ああ。確認したら、また電話してくれ。マジこれは俺だけじゃどーしょうもねぇからよ。てめぇと話し合いたい』

「分かった。折り返し電話する」


『なあ鈴理。この話は一日二日じゃ片付かねぇと思うぞ。……豊福には言うのか?』