桃子の言葉に英也は間を置いて相槌を打った。

娘の気持ちは分かっているつもりだ。

昔から令嬢の振る舞いを嫌い、我が道を進む子だとは理解している。


型破りな性格だと理解はしているつもりだが、三女もまた竹之内財閥の令嬢。

財閥のため他の姉妹同様、将来を背負っていかなければならないのだ。


二階堂次男と許婚を結んでいるのも決してお遊びではない。

それを両者は理解しているのだろうか。

いや子供ゆえ、まだしていないだろう。


「桃子。実は二階堂側から昨日、報告と相談を受けた。財閥同士の“共食い”が激化している。提携企業を取られることも多々だと。
財閥同士の提携はより深く結ぶべきではないだろうか? 僕は二階堂家とは友好な関係を築き上げていきたい。
それにはおめでたい話が欲しいところ。許婚ではなく婚約に昇格するべきではないだろうか?」


英也の溜息に桃子は眉を下げた。
 

「鈴理が受け入れてくれるでしょうか? あの子は大雅令息と友人であろうとしています。何よりあの子は恋をしている。
母親として分かるんですよ。あの子がどれほど本気で豊福くんと恋をしているかが。あの子を傷付けたくありません。ああ見えて繊細ですから」
 
 
そう言ってもこれは鈴理一人の問題ではない。

竹之内家と二階堂家の将来の存続に発展する問題なのだ。

一個人の私情では通らない、問題なのだから。



「近々大雅令息と鈴理を婚約させたい。それが二階堂家の相談なんだよ。桃子。あの子がどう思ってもこれは一人の問題じゃない。二家の問題だ」



書斎の扉前で盗み聞きしていた次女の真衣は険しい表情で宙を見据えていた。



「結局は娘達ではなく、財閥の将来なのですね。お父様」