俺達の間に言葉がなくなる。
静寂というよりも沈黙。その空気を作っているのは先輩だ。彼女の名を呼ぼうと口を開く。
その前に頭を抱かれた。
瞠目する間もなく、
「放してやらない」
先輩が独占欲を見せてくる。
俺だって放す気はないですよ、と言いたかったけど今は成されるがままになった。
鈴理先輩は俺の言葉より、俺の体温を求めている気がしたから。
さっきまでおイタしていた手が俺の背中に回ってきた。
彼女と目が合い、俺は頬を崩して相手に擦り寄る。
髪を梳いてくる先輩は、ちょっと身を起こすと額と耳に唇を落としておやすみと挨拶をかけてきた。挨拶を返して俺は瞼を下ろす。
交わした会話のおかげさまで妙な不安を抱いたけど、大丈夫だよな。
俺の杞憂だよな。
先輩の様子がちょっちおかしいのも、すぐに元通りに回復してくるだろう。そう願いながら俺は眠りに就くことにした。
ちなみにこれは近未来、翌日の話になるんだけど、鈴理先輩って超策士で俺が起床した時には自分の布団に戻っていたという。
けろっとして両親や俺に挨拶していた姿を見た時の脱力感を朝っぱらから味わうなんて、この時の俺は知る由もなかった。



