じゃないと力ずくで布団に戻しますっす。
先輩に忠告すると、「(空が?)」先輩が訝しげな面持ちを作った。
首肯した後、俺は間を置いてやっぱり無理かもしれないと考え直した。
相手は合気道を習っている令嬢だぞ。細身でありながら手腕はそれなりにある。
一方の俺は何も習っていない。
どちらに軍配があがるのかは一目瞭然じゃないか!
失言だと口を曲げていると、「(なあ)」声のトーンを落として先輩が話題を切り出してくる。
どうしたのかと視線を流せば、躊躇いがちに先輩が今日は楽しかったと一笑した。
建前のお礼だと分かってしまう。
本音はもっと別のものだと分かってしまい、俺も戸惑った。
瞬きをして相手を見つめていると、先輩が今度こそ本音をぶつけてきた。
「(空は大雅のこと、どう思っている?)」
まさか此処で大雅先輩の話題が出るなんて思いもしなかった。
どう思っているって勿論、あの人は傲慢で俺様でここぞって時にヘタれるロールミート系男子だと思うっす。
悪い人じゃないとは思うよ。
寧ろ、友達として仲良くしていきたい人だ。メンドクサイ先輩だけどさ。
有りの儘に告げると、「(じゃあ)」あたしと大雅の関係は? 更なる質問が重ねられた。
面を食らってしまう。
鈴理先輩と大雅先輩の関係って許婚のことを指しているんだよな。
どう思っているかって聞かれても、彼氏の立ち位置にいる俺にはなんとも言いづらいものがある。
なんっつーか許婚って庶民の俺からしてみれば、漫画みたいな関係だから。
でも二人は確かに許婚だ。それは変えられない事実。
「(お二人を見ていると嫉妬する関係だと思うっす)」
だって俺、彼氏ですもん。
目で笑ってやると、先輩が曖昧に笑声を漏らした。
もっと別の答えを待っていたみたいだけど、今の俺には彼女がなんと言って欲しいのかイマイチ分からない。
だから嫉妬する関係としか言いようがなかった。
例えばこんな風に言ってあげれば良かったんだろうか?
いずれお二人は将来を誓い合う関係ですよね、とか。
財閥を背負い、支え合う関係ですよね、とか。
必然的に結ばれる関係ですね、とか。
これでも彼女のことが好きだから、それはあまり言いたくないけれど、先輩が望んで言って欲しいなら言葉にするよ。
あくまで先輩が望んだらの話だけど。



