疑念を抱きつつ俺は母さんと夕飯の支度をするため、鍋をちゃぶ台に運び、食器を並べ、白飯を茶碗によそった。

父さんにはビールとコップを手渡し、さあ待ちに待ったすき焼きタイム。鍋を覗き込んだ俺達は声を上げた。

が、すぐに俺と両親は首を捻る。

いや不味そうとかそういうわけじゃない。


ぐつぐつと煮え立った砂糖入りの醤油の海に牛肉や白ねぎ、しいたけに焼き豆腐、春菊と入っていて美味しそう。美味しそうなんだけど、それにしたって。


「肉の量が多くなっているような気がするんだけど、こんなに多かったっけ?」


俺はおかしいな、と頭部を掻いた。

一応は中身を確認したら、一人一枚食べる計算になっていたんだけど、一人三枚以上は食べられる量だぞ。これ。まさしく肉たっぷりだ。
 

「箱で見た時はもう少し少なかった気もするんだが。母さん、どうなんだい?」

「さあ。下ごしらえをしてくださったのは空さんと鈴理さんですし」


ハテナっと頭上にマークを浮かべる俺達。

「美味しそうですよ」

鈴理先輩が温かい家に食べた方が良いと促してきたから、同調して俺達は揃ってイタダキマス。

気にすることをやめて夕飯を食べることにしたんだけど、まずは一口と熱々の豆腐を食べた俺はびっくり仰天した。


あっれー、なんか今日の豆腐、めっちゃ美味くね? 俺の気のせいじゃなかったら、いつもより滑らかな感じが。
 

父さんも白ねぎ美味しいって言っているし、母さんもしいたけの厚みが凄いって言っているし、肉は当然柔らかくて美味しい。


総計して言えば全部美味い! 食材全部が美味いよ!


「今日のご飯はいつになく美味しいな。久々にすき焼きを食べたからかな?」

「それに鈴理さんが来て下さったからですよ。ご飯は皆で食べるのが美味しいと言いますから」


にこにこっと両親が笑顔を零した。

俺もそうなのかもって笑みを零すんだけど、なーんか引っ掛かるんだよな。

だって豆腐も白ねぎも春菊もしいたけも、俺が買ってきたわけなんだけど、すっげぇ安く仕入れてきたんだぞ。

つまりいつも食べている食材なんだけど、今日は格別に美味しい。