「空さんの彼女さんって改めて見ると美人ですね。ね、裕作さん」
 
「そうだな。お淑やかで礼儀正しいし、なにより女性らしい」

「ありがとうございます。そう言って頂けると嬉しいです」


………、普段の先輩を見せてやりたいよ。父さん母さん。

のほほんと会話している両親に、

「そんなことないですよ」

自分は普通だと先輩が一笑した。「な?」同意を求められ、俺は誤魔化し笑いを浮かべる。先輩の何処が普通なんでっしゃろう。
 

ぞわっ。

俺の背筋に寒気が走る。ぎこちなく先輩を見やった後、俺は下に視線を落とした。
 

そこには太ももをお触りお触りしているおイタな彼女の手があったりなかったり。

こ、こんの攻め女はいけしゃあしゃあと何してるんっすか!

両親の死角で何逆セクハラしてるんっすか!


って、ツッコミたいのにツッコめないのは目前に両親がいるからだ。
 

お願いっすから俺の両親の前で攻めモードにだけは入らないでくださいよ。

両親には受け身のヘタレ男だって知られたくないんっすから。


切な懇願も先輩には届かず、先輩は柔和な笑みを浮かべたまま右の手を動かしている。

どうにか手を止めようと行動を起こすんだけど、その前に「空さん」母さんから名前を呼ばれてぎくり。
 

おずおず視線を母さんに向ければ、「お鍋を持ってきましょう」そろそろ温まっている筈だと母さんが腰を上げた。

手伝って欲しいと間接的に言われ、俺は慌てて立ち上がった。


「先輩は座ってていいっすから」


にこやかに伝えてその場から逃げる俺の耳に、チッ、と舌打ちが聞こえたのは気のせいだろうか。


思わず振り返ってしまう。


そこには父さんと談笑している変貌した先輩の姿が。

……先輩、もしや二重人格の持ち主じゃないっすよね?