前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―




「二度目の嬌声は絶対に録音に記録しておくつもりだったのに。空の『も、むり』というあの声は堪らなく良かったのだが! 馬鹿すぎるあたし!」


奥歯を噛み締めて地団太を踏んでいる彼女を一瞥した俺は視線を戻して千行の汗を流す。

これは不味いぞ豊福空。

両思いになった彼女とほのぼのカレカノ関係に…、なれるとは思わなかったけど(彼女の性格上…な?)、こんなにも性急に関係が変わっていくなんて。


嗚呼、彼女の行為がどんどん過激になっている。エスカレートしていることは否めない。

寧ろ真面目に貞操の危機問題を考えないといけなくなってきた。


何が悲しくて男を鳴かせたいんっすか、先輩。

草食系男子の俺にさえ理解しがたい思考っす!


……やっぱ先輩って生粋の肉食系女子だよな。


どうしよう。
キスからワンステップ、ステージを上がっちまったんだけど。

プラトニックラブを貫けるか分からない。


腹に決めた信念は貫きたいけど、なにぶん相手は攻撃型お嬢様。逃げれば逃げるほど攻撃力を上げていくという。

はてさてどうやって貞操を守っていこうか。

あーあーあー、俺だって先輩を攻めたいのに。女ポジションを譲っているとはいえ、これはあんまりだ。

はぁあ…、キスを仕掛けるだけじゃ反撃の手が緩くなってきたのかなぁ。

所詮俺が反撃できるキスは触れるだけのバードキスだよ。


フレンチキスなんてハイレベルな行為はできないっつーの。
 

ははっ、どーせ俺は生粋の守備型草食男子だよドチクショウ!
 

うめき声を挙げながら急須にお湯を注ぐ。

俺の家にはポットなんて大それたものはないから、じかにお湯を注ぐしかない。


マナー的に違反かもしれないけど、彼女も大目に見てくれるだろう。

ヤカンをガスコンロの上に戻し、俺は急須に蓋をして吐息をつく。


彼女から与えられた羞恥心のせいで未だに心拍数が速い気がする。


お茶っ葉を蒸らしていると背後から抱きつかれた。

自然と緊張する俺の体に笑声を漏らす鈴理先輩は、「なあなあ空」もう一度しないか? と強請ってくる。

今度こそ三度目の正直として、ちゃーんと録音しておくから! とかほざくおばか彼女。じょ、冗談ごめんなさいっすよ!


かぶりを振って拒絶を示すと、「耳が真っ赤だぞ?」と背伸びして息を吹きかけられた。


「ちょっ!」やめて下さいよ! 背筋を伸ばして声音を荒げるけど、彼女は総無視。
 

「空は可愛いな」


からかいがあると笑声を零して、背中にぐりぐりと額を押し付けてくる。

「空だから」本気になるんだぞ、意味深な台詞にちょい冷静を取り戻した俺は視線を後ろに流す。

顔は窺えない。

でも回してくる腕の強さは変わらない。