「先輩。ちょっとだけヤカンを見てもらっていていいっすか? 俺、洗面所で着替えてきますから」
「何故だ? 此処で着替えればいいではないか。あたしは気にしない」
俺が気にするっす!
「その携帯はお下げなさいっす!」
俺は彼女の持っている携帯を閉じるよう怒号を上げる。
「おっと」
なんで携帯が起動しているのやら、すっとぼける鈴理先輩はイソイソと携帯を閉じて背後に隠す。
あぁあああ、着替えが早い理由が見えたっす!
あ、相変わらず不純なことばっかり目論むんっすから!
「センッパイ! 俺の着替えを見たところで得はないっすよ!」
「他者はそうかもしれん。だが、あたしは例外だぞ、空」
「所詮は野郎の着替えっすから!」
「自覚があるなら、ででーんと着替えてしまえば良いではないか。女子か!」
「貴方がただの女子ならいざ知らずっすけど…、先輩は肉食攻め女っすよ! おぉおお俺、向こうで着替えてっ! いやもう、このままでいいっす! ま、まだお湯は沸いてないか…?!!」
うぎゃっ、悲鳴を上げそうになったのはこの直後。
ニッコリニコニコ笑顔を向けてくる彼女が目と鼻の先まで詰め寄ってきたんだ。
悪意ある笑みは攻めモードそのもの!
ちょ、駄目っすよ!
来て早々あらやだぁなことをするのは!
だって此処は俺の部屋で、人は俺達しかいなくって、ガードマン達も不要で……あんれ?
拒む理由が見つからないんだけど。
母さんもまだ帰宅するには時間を要するだろうし。
実はすっごいピンチな環境にいるんじゃないかと気付いた鈍感男は、千行の汗を流して壁を背に伝い歩きを試みる。
無論鈴理先輩が逃すはずもなく、「そーら」背伸びして耳に舌を忍ばせてきた。
「だぁあめっす!」完全に動揺している俺に、「だが」夜はご両親がいるのだろ? 攻めるのは今しかないと鈴理先輩はニンマリ口角を持ち上げる。
言い訳も見つからない俺の頬を包んで、「今度はちゃんと」キスをしよう。
それこそ真剣に見つめて見つめて見つめ返して、手を引いた彼女がゆっくりと唇を塞いでくる。最初は触れるだけ、重ね合わせるだけ。
次第次第にそのキスが深くなっていくことを俺は知っている。
いやもう体で教え込まれたっていうか? 身をもって経験しているっていうか? なんていうか?



