「空からお誘いがあってな。今日は空の家ですき焼きをご馳走になるのだ。
しかもお泊り付きときた! 泊まりに夕飯、そして空を頂けるなどこれ以上にない美味話!
ご両親とも親睦を深められるチャンスだし、陰でこっそりあーんなことやこーんなこともできるし。スリルも少々味わえるかもしれないし。
なにせスリルは興奮の糧になるというではないか」


「豊福。正直に言え、本当は鈴理に食われたいんだろ?」

「滅相もないっす。俺は健全お泊まり計画を決行しているだけっす」
 

「うーむ、空と共に入浴したいが…、ご両親は許して下さるだろうか? 入浴はまだ健全ラインだと思うのだが。
庶民の浴室は狭いと聞くし、ご許可を得られないかもしれない。
しかしあたしは浴室の狭さも恋愛オプションの一つだと思っている。

狭ければ狭いほど、空との密接度も上がる!

……押し倒さずいられるだろうか、あたし。空はえっろいしなぁ」


「……、健全お泊り計画がなんだって?」

「……、健全お泊り計画(仮)と名づけ直しますっす」


饒舌に本日のスケジュールを立てていく彼女、大雅先輩は呆れ顔で肩を竦めていた。

「馬鹿だろお前」

自分から地獄に飛び込むなんて、ご尤もなことを言われてしまう。

ほんとっすね、馬鹿をしているとは思うっすよ。


でも彼女が喜んでいるなら俺はそれでいいと思っているんだ。


最近の彼女は本当に変だから。

少しくらい危険に身を投じても彼女には笑っていて欲しい。

小声で吐露すると意味深に大雅先輩は鼻を鳴らし、

「大切にしてくれているんだな」

許婚としては嬉しいところだと一笑を零す。
許婚としてというより、幼馴染として嬉しいところだと大雅先輩は台詞を言い直す。


「テメェが鈴理の彼氏で良かった。あいつって激変わっているからさ。あいつの掲げる持論についていける野郎がいるか不安だったんだ。
俺でさえ、あいつの持論は『……』だったし。

そういう面さえ豊福は受け入れてくれている。改めて安心した」


「ふふっ、認めざるを得なかったんですけどね。おかげさまで俺の男としてのプライドはボロ雑巾も良いところです。はぁ、俺の男道、何処で間違ったかなぁ」


「男の娘だもんな?」揶揄してくる先輩に、「意地悪いっす」俺は受け男なだけっす、鼻を鳴らして反論した。


男を捨てたわけじゃない。無理やり女ポジションに立たされているだけで、べつに娘になったわけじゃないよ!

いつか娘になる日もくるかもしれないけど!

モロッコで性転換手術をするかもしれないけど!