(それに、やたら鈴理先輩…)
 

俺は母さんに風呂に入ってくると告げて、洗面所に向かった。
 
洗濯機や洗面台、タオルや下着が入っているラックがひしめき合っているその場所で上半裸になると、洗面台前に立った。

「うわっ」

凄い数だと声音を上げる俺は、鏡面の向こうにいる自分の首筋から鎖骨に掛けて指でなぞった。

相変わらず目立つ場所に付けてくれるよなぁ、鈴理先輩。

キスマークと称される内出血があちらこちらで華を咲いているじゃないか。
下手すりゃ痣になりそうだよ、ほんっと。
 
最近じゃ両親の目を誤魔化すのも苦しくなってきたこの痕に目を細めて、俺は実体の鎖骨を手の平で擦る。
 

(ここ数日…、キスマークを付ける先輩の行為が過激になっている気がする)


付ける数が多くなったわけじゃない、だけど付けられる時の痛みが増した。

最初こそ気のせいかと思ったけど、チクリと針で刺されるような痛みの鋭さを感じる度に気のせいじゃないと実感。

先輩は故意的に強く吸っている。

いつか吸われた上に噛まれるんじゃないだろうか、懸念を抱くほどジクリと痛むキスマークの行為に俺は違和感を覚えて仕方が無かった。


単なる先輩の気まぐれならいいけれど、いいんだけど。


(……、もし、これが気持ちの表れだとしたら)

  
先輩は俺に何かメッセージを伝えているんじゃ…、考え過ぎかな。
 

御堂先輩が現れてから何かと攻め度が増した気はするけど、それにしても過激になったな。この行為。

鏡面の向こうに視線を向ければ、酷く情けない顔を作る俺がいた。


ブンブンとかぶりを振って、俺は頬を叩く。


俺が気鬱になってどうするよ。

明日は先輩が来るんだぞ、テンションをハイにしていかないと。本調子になってもらうためにも御持て成しをしないとな!
 

……、先輩の中で『御持て成し=俺→イタダキマス』にならないといいけど。
  
 
楽しみであり、ちょっぴり…、嘘、多大な不安を胸に抱く俺はオッソロシイ想像をしてしまい、ゲンナリと溜息をついたのだった。


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