むくり。

頭上に分厚い雨雲を作っている鈴理先輩が、静かに上体を起こした。

にへらと笑ってくるお嬢様に、同じ顔で笑みを返す(若干引き攣り気味)俺達の間に沈黙ができるのは自然現象だと思って欲しい。


節々で己の中の中学二年生を暴走させた鈴理先輩は、呆気取られている俺達にいつまでもにへらへらと笑い掛けてくれた。
 

どうしたんっすか、何かあったんすか、聞いても彼女はにへらへらと笑うだけ。

挙句、頭の螺子が緩んでしまったのか、螺子がどっかに飛んでしまったのか、はたまた大雅先輩の言うようにご乱心してしまったのか。

実はかめはめ波ができるのではないかと思い立ち、危うく美人お嬢様が夢見る少年ごっこをするところだったという。

隣に座っていた大雅先輩が全力で止めてくれたものの、鈴理先輩らしからぬ行動に俺は混乱も混乱だ。


今日以外にも度々目の当たりにしている物思いに耽っている様子、そして彼女らしかぬ言動からして、何かを悩んでいるようには思えるんだけど。
 

ここ数日の彼女の挙動不審に俺は憂慮を抱いていた。

キスしたり押し倒したり攻めたり等々は、ちゃーんとしてくるんだけど何かがおかしい。


彼女は思い悩んでいるように思える。

小さな悩みだったらすぐに打ち明けてくれるんだろうけれど、あの様子からすると深い悩みがありそうだ。


誤魔化すために言動がおかしくなっているような気がしてならない。


彼女が抱く大きな悩みとして考えられる一つの要因は、ご家族のこと。
 

鈴理先輩は家庭を窮屈だと思っている。
四姉妹一の変わり者である彼女にとって財閥の常識は心苦しいと本人から聞いていた。

彼女は家族、もしくは家庭のことで悩んでいるのかもしれない。

心に踏み込んでみたいけど、彼女の抱く問題はデリケートだ。俺自身も経験があるけど、身内のことについて他者から触れられるのって抵抗感があるんだよな。


だから俺は聞けずにいた。

初めて見る鈴理先輩の挙動に戸惑いを覚えているっていうのもあるんだけどさ。