ちゃぷちゃぷ、ばちゃばちゃ、水面を蹴る。
波紋が二重三重四重に広がり、向こうの花壇縁にまで届いた。
花壇で眠っている花々は気持ち良さそうに首を垂らしている。
「どうしましたか。最近のお嬢様は、物思いに耽っていることが多いですよ」
問い掛けられ、鈴理は何でもないと答えを返す。
だったらちゃんと食事は取るでしょう、しつこいお松の追究に鈴理は唇を尖らせた。
今しばらくダンマリとお松の鋭い眼光を受け止めていたが、不意に、「空は」どうしてあたしと付き合っていると思う? 第二の母に尋ねた。
キョトン顔を作るお松だったが、すぐに頬を崩して返答。
「お嬢様を好いているからでございますよ」
嬉しい答えにも、気持ちは晴れない。
「あたしは空に許婚のことを黙っていた。黙秘したままアタックもして、付き合う口実を手に入れて、正式に付き合うことになったのだが…、あたしは許婚がいたままだ。
この状況、空には心苦しいものなのだろうか」
「大雅さまとの関係でお悩みなのでございますか?」
首肯。
鈴理は許婚の存在が彼を苦しめていると指摘された先日のことを思い出し、どんより曇り顔を作る。
『鈴理、豊福が許婚の存在を気にしていないと思っているのかい? まさか、彼が気にしてないとでも本気で思っているのかい?』
当事者同士は許婚というより、好(よ)き悪友で接しているつもりなのだが、表面上でも“許婚”という関係は彼自身にとって重荷になっているのだろうか。
許婚とも仲良くしている彼自身からはそんな素振り、一抹も垣間見えなかったのだが…、自分の知らないところで悩んでいたり、不安を抱いていたりしているのだろうか。
なによりも、好敵手がその一面を知っている。
悔しい一方で、自信を喪失してしまう。
傍にいた時間は自分の方が長い筈なのに。



