純粋に彼を守っていると思った瞬間はいつだっただろう。


具体的な例えを挙げるのならば、幼少の記憶を取り戻してしまった彼の傍にいた刹那が挙げられる。
 

無理に虚勢を張って自我を保とうとしていた彼が崩れてしまったあの日あの夜あの瞬間、ただただ懺悔している小さな彼を抱擁していた。


ごめんなさいと繰り返す彼の背を何度も擦って、傷付いた心を慰めることしかできなかったけれど、それでも傍にいることで彼の安定剤にはなれていたと思う。
 

ホテルで一夜を過ごしている間も、ベッドに入った後も、夢路を歩いているその時も、彼はただただ人のぬくもりを求めていた。


先に眠りについてしまった彼の髪を梳いていると、両親の名を紡いで自然と涙を流していたあの姿。


「ダイジョーブ」声を掛け、そっと身を引き寄せてやると甘えるように擦り寄ってきた。


ぬくもりを貪り、誰かに甘えることで幼少の行為を許してもらいたかったのかもしれない。


その証拠に翌日の彼は付き合いの中でも稀に見る、甘えたがり屋さんになっていた。
 

先に起床し、彼が起床するまでベッドにいたのだが一向に起きない。

だったら着替えでも済ませておこうか、そう思ってベッドから下りようとした。
 

すると寝巻きを掴まれてしまい、下りるに下りられず。
 

視線を辿れば目を腫らした彼が起床していた。

「おはよう」挨拶すると、「…はよっす」蚊の鳴くような声で挨拶、起きる気配はなく、寧ろ寝巻きを静かに引いてくる。

何処に行くのだと態度で示してくる彼に着替えるだけだと説明。


それでも彼は動かず、手も放してくれなかった。
 

「空」起きないのか、努めて優しく言葉を掛けると、まだ起きられないと彼。

否、起きたくないのだと察した鈴理は、「しょーがない奴だな」寝転がって愚図っている子供の頭を撫でる。


無言で体を密着させてくる子供は、思い出したように体を震わした。

「ごめんなさい」謝罪してくる彼、自分の行為に悔い、親を目の前で失った時の傷の深さを垣間見たようで胸が痛んだ。