オッソロシイ視線を真正面から受ける俺は臨時逃走体勢に入った。
つまりは逃げ腰だ。
禍々しくどす黒いオーラを放っている鈴理先輩は、
「だから言っただろ?」
その姿で走れば、誰かが発情すると…、グッとブレザーを握り締めて不敵な笑みを浮かべてくる。
「空、あたしは二次元のあんたが誰かに妄想されようと、それこそいたらんカップリングを作られようと寛大な心で見るつもりだ。
なにせ百合子はあたしのために攻め女小説を手掛けてくれているのだから、多少の我が儘は此方も聞いてやらないとフェアではない。
が、三次元(リアル)ではそうもいかない。
あんたが誰のものか、ちゃーんと教えなければいけないようだな。そのカ・ラ・ダに」
泣いても喚いても叫んでも手加減してやらないぞ、なんぞ仰られる鈴理先輩は本気モードに入った。
や、や、やばい。これはやばい。
本能が叫んでいる。先輩はヤる気だ。絶対にヤる気だ。
「まずは」
唸る彼女は離れろと命令。
いつまでくっ付きあっているのだと指摘されて、俺達は瞬時に距離を置いた。
べつにこれは事故で至近距離になっていたからであって、ヤマシイ気持ちとか、あらやだぁな気持ちとか、宇津木先輩の妄想のようなことはこれっぽっちもなかったんだけど、彼女の凄みについつい条件反射。
命令どおり距離を置いて、お互いにへらっと笑ってみせる。
で、「ヤられて来い」仕返しなのか、残酷な事を仰る大雅先輩が俺の背中を容赦なく蹴り飛ばした。
痛みと衝撃でつんのめる俺は体勢を崩しつつも、
「おっとっと」
どうにか物に掴まって転倒を回避。
ホッとする間もなく、俺は青褪めて掴まった物、いや者に視線を下げる。
ニーッと口角をつり上げてくるのは我が彼女。
虎視眈々と狙っていた獲物を捕らえることに成功したような、そんな歓喜に満ちた光を瞳に宿している。
ゴクリ、恐怖のあまりに固唾を飲んでしまう俺は恐る恐るすり足で後退。
腰を掴まれて逃げることも叶わず。
膝裏を蹴られて、世界が軽く反転。
体躯の小さい先輩に背中を支えられるという、なんともマヌケな体勢になった。



