ぐるっと周辺を見回してみる。


戸棚に仕舞われているビーカーやフラスコ、ホルマリン漬けにされてる液浸標本、人体模型にガイコツ模型。

視線を上げれば、戸棚の上、見やすい位置に昆虫の標本が飾られている。

馬鹿でかい蝶が彩られている翅を広げてこっちを見下ろしているようで、ちょっと不気味。


視線を戻して、俺は並列に並んでいるテーブルの一角に腰を下ろした。

このテーブルの下には木箱のような椅子が押し込まれている。
椅子を出すのは面倒だ。
 

「やっぱり遅れたから怒って帰っちゃったのかな。んー、取り敢えず、携帯で連絡を取ってみようかな」

 
先輩から借りている白の携帯を通学鞄から取り出してディスプレイを開く。

同時に、ナナメ後ろから衝撃。
よろける体と落としそうになる携帯、瞠目する俺。

すべてが混乱させる材料だ。
 

だけど耳を食まれて我に返った。


「せ、先輩…」びっくりさせないで下さいよ、後ろから抱き締められている俺は引き攣り顔で首を捻る。

「何処にいたんですか?」

問い掛けに手洗いに行っていたのだと返答、絹糸のような髪を靡かせる彼女は、「遅かったな」アイロニー帯びた笑みで俺を歓迎してくれた。
 

嗚呼、まじっすか。

その表情だけで身の危険を感じるんだけどぉおおお?!


引き摺り下ろされたせいで、俺は床に尻餅。

鞄は中身をぶちまけて向こうに転がるし、借りた携帯も衝撃で落としてしまった。


呻き声を上げる間もなく、鈴理先輩に押し倒される。

ははっ、この展開、お馴染になってきたっ!
マジ毎度のことながらどうしましょうな展開だよな!


……だけど、今日は俺がお誘いしたわけだから、気を引き締めていかないとっ。
 

言われる前に片手でネクタイを解き、ボタンを外し、「先輩」場所を変えてもいいっす、分かりきった台詞を啄ばむ。