「君は僕に男友達が欲しいから、と助言してくれたが……、やはり僕は男が嫌いだ。それは現在進行形で変わることはない。
だが豊福を男だからと言って距離を置くにはあまりにも惜しいと思った。男であろうと僕は君と繋がりを持ちたいと思ったんだ。
それは何故?
自問自答するまでもない。
僕は君自身の魅力に惹かれてしまったんだ」
目を盗んでそろそろーっと大雅先輩の背後に隠れようとしたんだけど、「君は僕の心を奪った」彼はドンッと御堂先輩に勢いよく押されて転倒しそうになっていた(大雅先輩「玲、テメェよくも!」)。
両手を取ってしっかり握ってくる王子は熱い眼差しを送って、俺を瞳に閉じ込めてくる。
「僕の負けだ。意地張って君のことを気にしないよう努めていたが、もうやめた。素直になる。僕は豊福が好きだ。僕の彼女になってほしい」
「か、かのっ」
彼氏じゃなくて彼女?! なんで彼女?!
「君に惚れてしまったんだ。今は鈴理に心を奪われているかもしれない。
だけどいつか、その心を僕が奪ってみせる。宣言する。冗談なんかじゃないぞ。婚約を前提にお付き合いしたいと思っているのだから」
「ど、どこからツッコめばいいんっすか! 第一に婚約前提ってのがおかしいですよ! 俺は庶民ですよ? 財閥でもなんでもない平々凡々な家庭の子供っす! 俺には鈴理先輩がいますしお、お断りっす!」
「庶民出身でも良いさ。僕には許婚もいないからな。堂々と婚約者になれるぞ。なにより、僕は君をこの手で抱きたいんだ豊福。
―――…僕は君を守りたい。彼女がいるなら、そのポジション、僕が奪うまでさ。奪って、そして君を彼女にする」
鈴理と同じように、僕だって男ポジションに立ちたい女なんだ。
昨日、君は言ったよね?
カッコイイ女性がいてもいい。王子を望む女性がいてもいい、と。
なら僕は君の王子になりたい。
攻め女と称されるなら、僕はきっとそれだ。
「好きだよ、豊福」
前触れもなしに腰を引かれて、抱擁される。
ちょ、マジで勘弁して下さいっ……、俺には彼女がいるんっすよ!
どんなに口説かれようとっ、貴方のお気持ちには応えられそうにないっす。
ついでにっ、ウワァアア、こ、腰触るのや、やめっ! 腕を抜け出したいのに力強っ! この人、めっちゃ強!
「御堂先輩ィイ!」悲鳴を上げながら腕の中で暴れる俺の髪を梳いて、「そんなに可愛い声を出すな」襲いたくなるだろ、見当違いなお馬鹿発言をするプリンセス。
これはいつも女性に言っている台詞、でも男の君にも言えるのは君が特別だから……っと笑声を漏らす。
ちょ、その甘い囁き、いつも女性にゆーてるんっすか?!
それはそれで問題っすよ!
「れ~い~ッ、あたしの前でいい度胸だ。空を放してもらおうか。そいつはあたしに鳴かされるために生まれてきた男だ」
ぐぇっ、襟首を掴まれた俺は蛙の潰れたような声を出して御堂先輩から引っ剥がされる。
その場に尻餅をつく俺の頭上では、俺の体を挟んで「久々に燃えてきたな鈴理」「まったくだな玲」ゴロゴロピッシャーン、バチバチ、青い火花にイナズマその他諸々雷雲が漂っていた。
絶え間なく汗を流す俺は繰り返し、自問自答。
なんでこうなった。なんでこうなっちまったんだ!
俺が悪いのか、俺が悪いんだろうか!



