「豊福との関係を公言する勇気もなく、こっそりこそこそ付き合っているからこうなるんだ。ははっ、僕が君だったらあの場で彼氏だと言うぞ」

「なっ、なっ……、あたしにむかってよくもまあそんな暴言を」


「所詮君の本気とはその程度だってことさ。少し張り合わないうちに、随分と鈴理はチキンになったものだ。せいぜい大雅とイチャイチャラブラブしておくんだね」


カッチーン、鈴理先輩がわなわなと体を震わせて握り拳を作った。


「なんであたしがあんなヘタレと」

地団太を踏む鈴理先輩の傍で、

「俺をそこで出すなって」大

雅先輩が呆れ返りながら後頭部を掻く。


二人の気持ちを知っていながらも御堂先輩はラブラブしておけば良いと毒づき、シニカルに微笑。

怒気を纏っている好敵手は嫌味を吐きにきたのかとガンを飛ばす。


すると王子は一変して破顔した。



「奪いにきたんだ、君から王子ポジションを。僕も欲しくなった」



瞠目した鈴理先輩にウィンクして、彼女は結った髪を尾のように靡かせてこっちに歩んで来る。

後ずさる間もなく目の前に立ってきた王子は真顔で俺を見据えてくる。


おずおずと視線を返し、


「ええぇえっとこんにちは」


何か御用っすか? へらりと笑ってみせた。

軽く目を伏せた後、瞼を持ち上げた彼女は一変して愛しむような微笑をくれる。


度肝を抜いたのは俺だ。

なんでそんな笑みを俺に向けるんっすか?

初対面は男なんて嫌いだツーン。
二度目ましては豊福なんて滅べのツーン時々デレだったじゃないっすか!


三度目ましてで見せる、その微笑の意味は。



 
「豊福、僕と婚約して欲しい」




俺と御堂先輩の間に吹き抜けていく風は空高く舞い上がった。

「なっ」顔を引き攣らせる鈴理先輩、「あ?!」大雅先輩が俺を凝視、周囲の動揺の声を上げる中、俺は唖然と相手を見つめる。


今、なんて言った? この人。


婚約して欲しいって言ったのか?

誰と?


まさか俺と?