えぇええ…、今のタイミングで言葉を返してくれるんっすか?

俺と会話をしてくれる気があるのかないのか、ちっとも分からないっすよ御堂先輩。

返してくれる気があるなら、せめて十秒以内に返して下さい。
じゃないと会話したいのかどうか分からないじゃないっすか。


俺と貴方の付き合いは浅瀬も浅瀬、謂わば二度目ましてだからお互いのこと、よく知らないっていうのに。


会話し難いと思いつつ、「俺と会うために休んでくれたんっすか?」ちょっと自惚れた発言をしてみる。

彼女のことだから、馬鹿を言うなとか怒鳴ってき「ああ。そうだよ」アウチ、ナナメ上の返答っす。

マジっすか。
そこは素直になっちゃってくれるんっすか。
反応に困るじゃないっすか。


よく分からない人っすね、ホンット。


「あ。階段上るんで」俺はコンクリートが剥き出しの階段を指差す。

 
「俺の家、二階にあるんっすよ。居間と寝室しかないんで、すっげぇ狭いと思うんっすけど寛いで下さいね」
  
 
そう言うと、彼女は仏頂面を作り、無言で手を差し出してきた。
 
奇怪な行動に俺は困り果てる。なんで俺、彼女に手を差し出されてるんだろうか。なにかをくれってことじゃないだろうしっ…、と。

焦れた御堂先輩が俺の右の手を掴んできた。

で、しっかりと握ってくる。

「え゛?」口元を引き攣らせる俺を余所に、「行くぞ」毅然と御堂先輩は階段を上り始めた。いや、行くのは分かるんっすけど、この手、この手はなんっすか?!


「御堂先輩」


引き摺られるように階段を上り始める俺は、この手の意味を尋ねる。
首を捻って彼女ははっきり物申した。


「階段での先導は当然の儀礼だ」


……つまりなんっすか、俺はエスコートされてるってわけですか?

たかが一階から二階に上がるこの過程で、俺は女性にエスコートされっ…、とてつもなく情けない構図だ、これ。

鈴理先輩ですらこんな気遣いはしないっす。
いや、彼女の場合はこそばゆいエスコートではなく、強引な姫様抱っこで何でも事を済ますんだけどさ。

ああっ、無理に手を振り払ったら、空気を悪くするだろうし。口が裂けても鈴理先輩には言えない光景だよな。