うーん…、もてなしもなにもできないけど、相手に時間があれば…、お茶くらいはご馳走できるぞ。まだお茶っ葉、残っていた筈。

母さんはまだ帰ってきてないだろうけど、少しくらい良いだろう。


まあ…、先輩に怒られそうな気もするけど、これくらいは許されるよな。


人として気持ちを気持ちで返すのは当然のことだし、彼女だって分かってくれる筈だ。
 


「御堂先輩、折角なんで一緒に食べませんか? 上がっていきません? 大したものは出せませんけど」

 

お誘いしてみると、素っ気無くフンと鼻を鳴らして一つに結っている髪を揺らし、颯爽と歩き出す。


ありゃりゃ断られちまった。


頬を掻いて相手の背中を眺めていた俺だけど、「何してるんだ」立ち止まった彼女が振り返り、早く来いとご命令。


僕が先を歩いてはおかしいだろうと苦情を頂いてしまう。


えええっ、ちょ、結局上がっていくんっすか。

だったら最初にお返事して下さいよ…、なんのためのお口っすか。あ、待って下さいって!
 

早足で歩き出す御堂先輩の後を急いで追った俺は、彼女の隣に並ぶ。

流し目で俺を見てくる彼女と視線がかち合い、大袈裟に視線を逸らされた。ほんっと取っ付きに難い人っすね、三日前までそんなことなかったのに。


めんどくさい人っす。

人知れず俺は吐息をついて、御堂先輩を案内するために歩調を速めたのだった。



 
 
「ふふっ、上手くいきましたね。やはり手土産を持たせた甲斐がありました。手土産は相手のお心を許させ、お家に上がりやすくなるものですから。玲お嬢様、しっかり相手のお心を掴むのですよ。
……だけれど、あの調子じゃいつ素直になってくれるやら。此処まで連れて来るのにも一苦労しましたし」

 
曲がり角のブロック塀で密かに俺等のやり取りを見守っているご婦人がいたことに、御堂先輩はともかく、俺は気付かなかった。