―――…蘭子の導きの下、夫妻が目の当たりにした光景は微笑ましい限りのものであった。
男勝りの我が娘は自室前の縁側に腰掛け、膝の上で頬杖をついて呆然。
庭に舞っている小さな蝶を眺め、ししおどしの音に耳を澄ませ、宙を見つめて、重々しく溜息。
唸り声を上げ、「なんで僕はっ」と時折昨晩のことを思い出しては頭を抱えている。
耳が赤いことから随分と意識している様子。
それとも羞恥からだろうか?
「豊福は男っ、分かってはいる。いるんだっ。
だが信じがたいっ、僕は男を口説いた挙句っ、さ、誘うッ…、な、なんてことだ! そういう意味で誘ってはないにしろっ、財閥界で噂になってしまったっ!」
嗚呼、やっぱりあいつは女なんだっ、そう思いたい、じゃないと僕自身が納得いかない!
髪を振り乱し、ぐわああっと頭を抱えに抱えている玲は、「男なんて」いつもの口癖を零した後、軽く目を伏せ、溜息をついた。
(豊福の女に対する気持ちを初対面ながら知ってしまったから、嫌悪しなかった。それは認める。あいつと話していると、男ということも忘れてしまう。それも認める。
だから少し興味を持ってしまったのかもしれないが…、なにより興味を抱いてしまったのはあの時だ)
ごろんと縁側に寝転がり、頭の後ろで腕を組んで玲は記憶を引きずり出す。
本当に興味を持ったのはあの瞬間だ。
そう、空が会場を抜け出しロビーで時間を潰していたあの時、なんとなく後をついて行った自分の目に飛び込んできた、あの物寂しい表情を目の当たりにした瞬間から、本当の意味で興味が出てきた。
なんであんな表情をしていたのだろう。
スーパーでは満面の笑みを浮かべて、意気揚々とタイムセールについて語っていたくせに。
―――…もしや分かっているのだろうか、自分の立場を。
幾ら財閥に気に入られた彼氏とはいえ、相手に許婚がいる以上、いずれは別れなければならないその運命を。
彼は覚悟しているのだろうか。
必ず別れなければならない、その日を。



