夫婦で嗜む茶会は良いもの、そう最愛の我が子にも教えている筈なのだが、我が子ときたら今年で17の娘にもなるというのに恋愛どころか男を毛嫌いしてしまって。
身内の男は嫌悪しないが、他人の男ともなるとそうもいかず。
横暴な態度をとって許婚を白紙にしてしまうほど、男を嫌っている。
そろそろ男に興味を持っても良いと思うのだが、娘は男装趣味に走り、自分が男のように振舞う始末。
まったくもって誰の教育でそうなってしまったのやら。
嗚呼、御堂財閥はこれで良いのだろうか。
苦虫を噛み潰したような顔を作る源二に便乗し、一子も着物の袖口で目元を拭う。
「玲はいつか、彼氏ではなく“彼女”を作ってきそうで作ってきそうで。嗚呼、貴方様、その時はどうしましょう。わたくしっ、暗転してしまいそうです」
「泣くな一子。男装趣味があろうと、あの子も心は女だ。きっといつか、男に目覚めてくれる日が来てくれる」
「ですけれど、玲はもう17。わたくしは16で貴方様と結婚したというのに…、恋愛に興味を持たない玲のことが不安で不安で仕方がありません」
おろおろと娘のことで青褪める一子、気持ちは十二分に分かる。
自分だって娘の男嫌いと恋愛の無関心さに涙が出そうになるほどなのだから。
揃って溜息をつく。
安らぎの静寂が未来を見通す重々しい沈黙に移り変わってしまった。
本当に子育てとは大変だ。
特に思春期を迎えた娘の子育ては頭を悩ませる。
無理やり見合いをさせ、許婚を取り付けてもまた白紙にするだけだろう。
どうすれば恋愛に興味を、いやこの際恋愛は置いておいて、男嫌いを直してくれるのだろうか。
バタバタバタ―。
障子の向こうから騒がしい足音。
憩いの時間を邪魔するとは不届き千万だと思う一方、もしや一大事でもあったのではないだろうか。
でなければ、夫婦の茶会を邪魔する女中などいない筈。
顔を上げる夫妻の下、「失礼します」障子がやや強めに開けられる。