「ありがとうございました」

 ハルコが。

 こんなことになるなんてと、何度となく今までに思ったことを復唱しようとした時。

 その声が、雑踏の中で聞こえてきた。

 自動ドアのせいである。

 どこかでそのドア開いた瞬間に、はっきりと聞こえたのだ。

 えっ?

 ハルコは、足を止めることが出来ないまま、首だけを声の方へ動かした。

「ハルコ!」

 ソウマの声に、ハッと我に返った。

 よそ見をしていた彼女は、反対方向からきた人とぶつかりそうになったのである。

 慌てた動きが、自分の身体をかばった。

「あ、ごめんなさい…」

 言いながらも、目はさっきの声を探した。

 どの店も、自動ドアだ。
 どれも閉じている。

 いや、一つ開いた。

 次のも。

 ハルコは、ドアが開く度に目を動かした。

「ハルコ?」

 怪訝そうなソウマの声。

「待って…いま…いま、どこかで聞こえたの」

 人の多い歩道の真ん中で立ち止まるのは、いいことではない。

 店の方に近づきながら、ハルコは一つ一つ中を覗く。

 聞き間違いでなければ。

 あの声は。

 ハルコの足が―― センサーを踏む。

 ぱっと。

 目の前で、ガラスの岩戸が開いた。

「いらっしゃいませ!」

 向こうを向いていた店員が、慌てたように振り返る。


 ああ…。