このままでは。

 彼女は行ってしまいそうだった。

 疲れているのね、とか自己判断して、ずっとカイトを眠らせ続けそうだったのだ。

 別に眠いワケではない。

 それよりも、彼女が―― 行ってしまうのがイヤだった。

 ぱっ、と。

 カイトは目を開けた。

 茶色の目は、本当にすぐ近くだった。

 その事実に驚く。

 相手も驚いたようだ。ぱっと身体が逃げた。

 どのくらい深く眠っているのか、のぞき込んでいたのだろう。

 カイトは、ぎしっとベッドをきしませて身体を起こした。

「おは…じゃない、えっと…夕ご飯、どうしますか?」

 慌てた声。

 カイトがいつも、あまりいい態度や表情で接しないせいで、彼女はそんな風に焦った声を出すことが多い。

 どもったり言葉を探したり、とにかくこの場を取り繕おうとするような声で、彼にしゃべるのである。

 いちいち顔色を伺う。反応や行動を確認する。

 自分の存在自体が、メイを威圧している気がしてしょうがなかった。

 しかし、変えられないのだ。

 優しく接したいと思っても、彼の心に反して態度やプライドが、いきなり道を狭くする。

 いつになったら。

 メイと、普通に接することが出来るようになるのだろうか。

 彼女が怖がらなくなり、自分ももっと穏やかに接することが―― 到底、想像できなかった。

 カイトは、ため息を飲み込んでベッドを降りた。

「食う…」

 昼間の、あのヨロヨロはもう取れている。

 分かっていたことを、自分の心が認めたがっていなかっただけなのだ。

 最初から決まっていることに、男らしくなくグチグチ言っていたに過ぎない。

 それよりも。

 もっと、この関係を改善したかった。

 このままでは。

 普通の生活なんて―― 絶対に来ない。