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 別に、朝早く会社に行く必要などなかった。

 いつも通りの時間に起き出しながら、カイトはあくびを喉の奥でかみ殺した。

 いまいち寝覚めがよくないのは、自力で起きたからだろう。

 昨日までは、これよりも早い時間にメイが起こしにきてくれていたのだ。
 いま思えば、幸せすぎる目覚めだった。

 9時より早く起きるなと、メイに言ってしまったのは、昨夜随分遅くまで彼女が起きていたから。

 放っておけば、あんな遅くなったにも関わらず今日も早起きをして、朝食の準備をして、それからまた掃除婦にでもなる気なのだ。

 こんなに部屋がきれいにしてあるのを、いくら唐変木のカイトであっても、気づかないワケがなかった。

 いや、普通の彼なら気づかないだろう。

 しかし、いまは彼女が働いているのではないだろうかと疑ってかかっているために、細かいことまで気づいてしまうようになったのだ。

 寝覚めの悪い気持ちを押しやりながら着替え―― そこで、自分がまたワイシャツを着てしまったことに気がつく。

 クソッ。

 彼女が起きてこないことで、一番イヤなことに直面してしまった。

 朝食は別にどうでもいいのだ。
 食べなくても死ぬワケじゃない。

 しかし、このネクタイだけは、自分で満たすことが出来ないのだ。

 私服に着替えようかと思いかけたが、今日に限ってそういう服でいると、またシュウに何か言われそうだった。

 会社の連中にもそうだ。

 帰ってきたところを、メイにも不審がられそうで。

 しょうがなく、カイトはあきらめてこのまま会社に行こうと思った。

 ガチャ。

 ドアを開けて、部屋を出る。

 思わず、彼女の部屋の方を見てしまった自分に気づく。

 何をやってんだ、オレは。

 そう思うけれども、首からぶら下がるネクタイが、彼女を求めてしょうがなかったのだ。

 しかし、その念力は通じなかったようで、ドアはそのままだった。

 カイトは自分を罵倒しながら階段を降りる。
 今日は、ダイニングに行く必要もない。

 そのまま、玄関に近づいて鍵を取るのだ。