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 室温と体温の差が大きすぎると、たとえ室温の方が高くても、一瞬身体が拒否反応を起こす。

 カイトは、ぶるっと背筋を震わせた。
 いま、確実に自分の身体に鳥肌が立ったのが分かる。

 くそっ。

 社長室に飛び込んだカイトが一番最初にやったのは、ネクタイが伸びようが縮もうが知ったことではない強さで、思い切り力を込めて解いたことである。

 ぶら下げているのも腹が立って、それを襟からシュルっと引き抜くと、そこらの床にたたきつけた。

 メイに締めてもらったネクタイではあるけれども、このネクタイそのものに価値があるわけではないのだ。

 元々は、憎い相手なのだから。

 朝っぱらから大失態である。

 叩きつけたネクタイを、更に追い打ちに靴で踏みつけにしようとした時、内線のフォンが開いた音がした。

 秘書だ。

『社長…副社長がお見えです』

 事務的な一言に、カイトは眉を顰める。

 ネクタイの側に立ったまま、ギロリとドアを睨んだ。

 いま来るものは、何でも敵と同じ扱いになるというのに。

「おはようございます」

 家でも挨拶をして、会社でも挨拶をするのか、この男は。

 入ってくる副社長を、歓迎していない表情で出迎えた。

 心の中は、『帰れ』『消えろ』の大合唱である。

「わざわざ遅刻してねぇか、確認しにきたのか?」

 ヒマなこった。

 おあいにくだったな、オレぁ遅刻してねーぜ。

 内心で、シュウに向かってざまーみろと思いながら、自分の机の方へと歩き出した。

「いえ、私はそんなに暇ではありません…社長に目を通していただきたいことがありまして」

 なのに。

 神経を思い切り逆撫でることを平気で言うのだ、この男は。

 何のために彼が、寒い思いまでしてバイクをすっとばしてきたと思っているのか。

 この男に、『それみたことか』という目で見られるのがムカつくからである。