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 本当は。

 本当は、オレは――

 自覚が出来た途端、うちのめされる結果となったカイトは、何も出来ない女を目の前に置いていた。

 そんな彼女に、「カイト」、と呼ばれた。

 んな顔で…。

 目を細めて、何でそんなに彼女は切ない顔をするのか。

 明るい笑顔を浮かべようとはしているのだろうが、眉間の間にある薄い影と、少し下げられた瞼がカイトを苦しめる。

 呼び捨てにするのは、メイにも苦痛があるのだろう。

 それでも、そんな表情になってまで彼女は自分を呼んでくれる。

 カイトがそう望んだから。

 これで、少しは近づけたと思いたかったのに、全然気力は元に戻ってこない。

 逆に、沈む一方のような気がした。

 何で。

 何で抱きしめられねぇんだ?

 自分のまいた条件やら宣言やら、いままでのことを思い出して見ても、気づいたらその鎖でがんじがらめになっている。

 何度繰り返したところで、同じことだった。

 けれども。

 どんなにがんじがらめになっても、彼女はそこにいるのだ。

 その事実だけは変わらないのである。

 たとえ、触れることが出来なくても。

 心が震える相手が、同じ家にいる。

 おそらく多分、これからも。

 カイトが――彼女をひどく傷つけたりしなければ。

 そう。

 彼が触れない限り、メイはここにいてくれるような気がした。

 そうして、『おかえりなさい』と言ってくれるのだ。

 いつか、自分も言うことが出来るだろうか。

『ただい…』

 ガシャン!

 ワインが割れた。