しばらくすると、父がどこかへ出かけて行った。

そっと部屋をでると、待ち構えていたみたいに母が廊下に立っている。


「さっきの言い方はなんだ?」


「本当のことだべ!」


母が肩で息をつく。


ほの暗い電球の下で母の顔は、余計に陰気に見え気が滅入った。


言い過ぎたかもしれない。


ごめんなさいという言葉が、でも、喉にひっかかったまま出てこない。


「本気で美容師だか理容師になりたいんなら、お金はなんとかする。でも、中途半端な気持ちなら、うちには、そうゆう余裕はない」


そう言うと母は踵を返した。


重くて湿っぽい初夏の空気が、体にまとわりついて、離れない。


千尋は今ごろ何をしているんだろう?