老犬チロと私たちの絆

叔父は優しかったし、よく遊んでくれた。結婚はしていなかったので、私や大志を、とても可愛がった…と母は言う。


その証言に、叔父と写した写真がアルバムにも納められている。


しかし、私が鮮明に覚えているのは、叔父の葬式なのだ。


皮肉なことに。


果てしなく続くように思われた、お坊さんのお経と、むせかえるほど甘い生花の芳香。


まだ痩せていた母の喪服の後ろ姿と、その日のために急きょ購入したローファーの馴染まない足元。白いレースのついたソックス。


線香の匂い。積み上げられた果物と和菓子の色彩。


泣き叫ぶ母や祖父母を、私は一歩引いた気持ちで眺めていた。


大人も、声をだして泣くんだな…


そんな風に。


沈んだ重苦しい空気の中で、祭壇に飾られた写真の中の叔父だけが、幸福そうに微笑んでいた。


チロは、家族も財産も持たないまま天国へ旅立った叔父の忘れ形見だ。