精霊達の棲家

隣のベッドに七十台後半で同じ脳卒中患者がいた。
症状は私の初期と同じで身体は動きが悪く食べ物も余り喉を通らない様子、言語障害もかなり強い。
このEさんに向かって看護補助員が激しい口調で叱責していた。
「何故勝手に動いた」
「どうして待てないのか」
「次やったら・・・・」
その剣幕にEさんは籠った声を絞り出すように
「はい、はい 解りました!!」
と応えた。
カーテン越しで様子は見えぬが、火に油を注いだようである。
「はい、は一回でいい・・・!! 」
そして患者の人格を否定するような言葉が発せられた。
院内では隣であれ、お互い辛い病を抱えての身でそれぞれの事情もある。
病院のごく狭い空間の中で個の生活総てを曝け出している状況下では、プライバシーの確保は非常に重要である。
些細なことであれ侵害は御法度である。
事情が分からぬまま会話に首を突っ込むかの如き行為は厳に慎まなければならぬが、この時は見過す訳にはいかなかった。