仲本の後ろを歩いていると この前のことを思い出した。 どうして、あのとき 私のこと 抱き締めてくれたの? 本当はそれがすごく聞きたい。 でも、聞けなかった。 聞く勇気が私にはなかった。 電車に乗り込むと、この前と同じように 私を優先してくれるのに 今日は鞄を持とうとはしなかった それがなにを表しているのかさえも 私にはわからない 一体どこに行くの? それも、聞けなかった。 「降りるよ」 低い声で突然言われて我に返った。 ここって、郁と仲本の住む場所の駅だ。 「あ、うん」