流れる景色は、 余計なことを思い出させないほど 高速に掻き乱れて行く。 身体を貫く風は、 アタシの身体事態を吹き飛ばす勢いで、 バカみたいな悩みを忘れさせてくれる。 耳をつんざくようなエンジン音は、 聴きたくない噂や会話や笑い声や怒声を 全て消し去ってくれた。 アタシは、“風”の中にいると、 無心になれた。 嫌なことも、楽しいことも、 全て忘れて。 ただ、世界に アタシひとりでいる気分になった。 だから、余計なことは考えずにすんだ。