……嫌いだって言った、あの曲を。
“ハンマークラヴィーア”第4楽章を嫌ってしまったヴェラと同じように。
「……蜂谷」
立ち去ろうとする蜂谷を呼び止めると、その足は素直に止まった。
「おまえ、本当に俺のこと覚えていないのか?」
文化祭の準備で校舎内は騒がしいはずなのに。
この場所だけが静寂に包まれているような感じだ。
いつもの蜂谷なら。
俺がこんな突拍子もないことを言うと、即、「バカじゃないの?」って思い切り顔を歪ませて言ってくるくせに。
今の蜂谷はその場に突っ立ったまま、言葉を発することも、振り返って俺を睨むことさえしない。


